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麦茶

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穐田允彦は29歳。

目だけ大きいお天気キャスターが他人事のようにアメリカ国の天気の心配をしているのを横目にインターネットの買い物サイトに苦情を入れ続ける。

それにも飽きた午前2時、とっくに終電が終わっている駅に向かいスタンドバイミーを口笛で吹くがうまく吹けない。駅舎は当然シャッターが下りていて、電車に乗って蜜柑を食べながらどこか遠くに行ってみたいとTV番組の主題歌が頭の中を過るが依然シャッターは下りている。
勿論、こんな時間に電車を動かすことも線路を歩いて「スタンドバイミー」と口ずさむこともできる権力も実力も無く、仕方なしにその辺にあった自転車の鍵を壊して中央線沿線を攻めてみる。

新宿中野高円寺、途中で自転車はパンクして、あやうく後ろから来たタクシーに轢かれそうになりながらも落ちていた100円玉を見つけて缶コーヒーを買って飲む。今時100円じゃ自動販売機で缶コーヒーは買えない時代、ひたすら自販機を揺すり続けていたら申し訳なさそうな音を出して1本出てきた。ついでにお釣りもカシャンカシャンと癇癪そうな音を立てて何枚も出てきた。なんという僥倖。
ガードレールに座りながら行き交う車のヘッドライトを眺めながらコーヒーを飲みながら、路肩すれすれに走ってきた高級車のバックミラーが膝の上数十センチのところをすり抜けようとしたその瞬間、思わずのけ反ったその反動で手にした缶コーヒーがお気に入りの白いパンツに飛び散った。
まるで世界地図のようだ、そうだ、これは、俺の明日を示す世界地図だ。コーヒーを飲みに行こう。

盗んだ自転車はトラックに惹かれてただの鉄屑になってどこかの業者が回収していった。

荻窪の駅を降りて右にぐーっと行ってしばらく先にある場末のコーヒー屋、確か喫茶コロラド。正直、荻窪には行った事がない。しかしそれは純然たる喫茶コロラド。
そこの薄い珈琲を啜りながら本を読むヨム。時代小説「風斬り五郎八」は町人のくせに刀を持って侍をぶった切る話で、読んでて何も得ることのない辻褄が合わない快作だった。あぁ、スターバックスに行きたい。スタバで1本80円で売っているバナナを買って、アイスキャラメルマキアートなんていう男子たるもの決して頼んではいけない甘い飲み物が出てくるまでのあの鬱々とした時間、その間に平らげるのだ。皮までべろべろべろべろ、丁寧に繊維を取り除いてベーロベロ。
ところでこちらが気を使ってローファットミルクにしたのにそれを大声で復唱するのは止めてくれ、五郎八が出て来ないかと半ば真剣に願うが自分はというと食べたバナナをその辺にポイっと投げ捨て、その皮できゃあきゃあ言って携帯電話に悪趣味なアクセサリーをジャラジャラ鳴らす女子高生が滑って転ぶのを微笑とも苦笑ともつかない厭な目線で見ているのだから、当然歴然無責任。

朝が来ればまたスーツを着て、霞ヶ関という灰色、そう灰色以外の何色でもない街に出て、灰色のビルに入って灰色の書類を左から右に流す。
そのうち寝て、そのうち隣のビルの1階にあるスターバックスで甘ったるい飲み物をちゅうちゅう吸って飲む。

穐田允彦は明日30歳。

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abril 2012

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